カテゴリ: 映画

 林家しん平監督の新作映画「二つ目物語」が完成し、試写会が行なわれた。会場は撮影の本拠地である寄席・いろは亭である。上中里の駅から歩いて6、7分くらいの所であるが、アタシは普段、上中里の駅を利用することはほとんどない。

 前作の「落語物語」からちょうど10年。クラウドファンディングにより、この作品は誕生したそうであるが、今回の作品は上席、中席、下席の3篇のオムニバスからなっており、落語と色物の総勢50名ほどが出演しているとのこと。順に追っていこう。

 上席は「貧乏昇進」で主演は柳家㐂三郎。出色は闇金融業の女事務員「まむしの京子」役の春風亭一花である。メークが少しうるさいが、まず誰だか分からない。普段のあの控えめな人柄からは想像できない、ぶっ飛んだ演技は出色である。いやあ、実にいい。

 中席は「幽霊指南」で、主演は柳家さん光であるが、ここでの目玉は落語芸術協会から引っこ抜いた瀧川鯉昇。モノクロ作品であるが、それが却って功を奏して、その眼力、唇の動き、その他のすべての表情が誠にいい味を出している。落語以上に迫力ある演技に圧倒される。

 下席は「モテ男惚れ女」。主演は柳亭市弥なのだが、金原亭杏寿の前座らしからぬ、さりげない素直な演技が好感持てる。実際の高座をじっくり聴いたことはないが、先行きが楽しみな女流である。これからどう化けるか大いに期待できる。
 
 なんて勝手なことを申し上げましたが、公開後にぜひとも話題になる映画となってもらいたい。いやあ、映画って本当にいいもんですね。
 

 今から14年前のお話。当時は映像の仕事をしていて、主にテレビの再現ドラマやTV・CMなどに出演していた。その日は調布の日活撮影所で映画の仕事があり、夕方に撮影所のセットに入った。アタシの役は屋台のおでん屋のオヤジという設定。
 
 映画の題名は「黄色い涙」。犬童一心監督の作品で、共演するのは嵐という男性5人のグループだというが、どんなグループかまったく知らない。映画のシーンは若者たちがおでんを注文して食べるという場面。たしか「いらっしゃい」という一言のセリフだったが、犬童監督からは声が大きすぎると何度も注意された。

 メンバーは本番までの少しの時間を惜しんで、踊りの振りを何度も何度も繰り返していて、あまりの熱心さにダンサーの男性グループなのかなと思っていた位。その後、リハーサルを何回か繰り返し、本番のOKが出て帰宅した。家にはカミさんと下の娘がいて、その様子を話した。

 「嵐というグループと一緒だったんだけど知ってる?」と訊いた時、2人は顔を見合わせて「エーッ」と驚いた。今ならアタシでも嵐といえばグループ全員の名前を言えるが、当時のアタシは全く知らなかったのだ。その娘は現在、嵐のファンクラブに入っている。

 近所にある私設図書館で毎月集会がある。年齢70デコボコのじじいとばばあの集まりで毎回、様々なビデオ上映が行なわれている。ここ2ヶ月ばかり都合が付かず欠席していたが、今回は参加することができた。この晩は「花王名人劇場」のビデオ上映であった。

 6時半に出向いたら、すでに全員集まっていて、酒を酌み交わしている。アタシを含めてちょうど10人。すぐに仲間に加わって、持参した焼酎を飲む。会費はわずかなもので、館主の奥さんの手料理が頂ける。手始めにハンバーグから野菜サラダと手を付ける。

 今回のビデオの中身はかつての様々な余興の数々。まずは先代助六師匠の「二人羽織」である。後ろに入って三味線を弾くのは先代の芝楽師匠、掛け合うのは現在の助六師匠。次は歌丸師匠の化粧術。これも何度も見たが、何度見ても笑ってしまう。今でも立派に通用する芸だろう。

 談之助師匠の「あこがれのスーパーヒーロー」。股引きをはいた月光仮面が懐かしい。三亀松師匠と亀太郎の親子共演による三味線の二人曲弾き。金馬師匠の「線香花火」。金馬師匠も80半ばを過ぎたので、もうやらないだろう。仙之助・仙三郎師匠の太神楽。改めて見てみると、当時の仙三郎親方はアフロヘヤ―だったんだね。

 ダーク大和のマジック。玉川スミ師匠の松づくしを楽しんで、最後は幇間の玉介師匠のお馴染みの屏風芸などなど、今見るとホントに懐かしい芸ばかり。見終わってからもその余韻を楽しみながら、大いに酒が進み、会話を楽しむことが出来た。

 

 毎月、月初めに近所にある私設図書館の眺花亭からメールが届く。主に演芸関係のイベント情報が多いのだが、その中に懐かしい映画や映像の公開の連絡がある。今までに「月光仮面」や「少年ジェット」「怪傑ハリマオ」「まぼろし探偵」などの映像を懐かしく楽しませていただいた。

 今回は「歌って踊って3人娘で年忘れ」と題して1956年、杉江敏男監督作品の「ロマンス娘」の放映と相なった。主演は美空ひばり、江利チエミ、雪村いづみの3人娘である。そして、それを鑑賞するのは平均年齢69歳の団塊の世代のおじん、おばんである。

 みなてんでに好みの飲み物を持参せよとのことなので、ワインであったり、マッコリであったり、日本酒、焼酎と様々である。アタシは焼酎を持参し、氷とウーロン茶を提供して頂いてチビチビといただく。放映は午後7時からであるが、もっぱら酒を楽しみたいという者は6時前には集まって来る。

 だから、映画が始まる頃にはいい心持になっている者もいる。アタシもそのうちの1人であるが、映画が始まればガブガブ呑むわけにはいかないので、それまでにせいぜいピッチを上げて飲むわけだが、始まる前に語られる、ひとときのたわいのない話がまた面白い。今回は船で40日間海外を旅して来たという女性の話で盛り上がった。

 さて映画が始まると、この3人娘の中では美空ひばりのギャラがダントツに高いとか、演技もひばりが一枚上だとか、この役者は当時、誰それと付き合っていてどうなったとか、とにかく、様々のエピソードが語られて、普通の映画館では考えられないような会話が飛び交う。

 そんな中で、今回は現在、ギンザシックスとなった松坂屋の在りし日の雄姿を見ることが出来た。アタシが小学校3年生頃の映像であろうか。とにかく同年齢の連中なので、その頃の懐かしい映像とともに当時の世相が様々に語られるのが、また楽しいのである。

 

 毎月、近所の私設図書館での集まりがある。ここは伝統芸能や映画関係の図書や資料が豊富で、それらに関心がある方々が覗きに来る。そして、月1回、映画やドキュメンタリーの映像を放映している。この日は昭和30年に公開された川島雄三監督作品の日活映画「銀座二十四帖」。

 この映画はその当時の銀座の景色を残したいという監督の思惑もあり、戦後から10年たった東京都心の映像がたっぷり楽しめる。主演は月丘夢路と三橋達也である。そして、若かりし頃の北原三枝や浅丘ルリ子の姿も見ることが出来る。

 浅丘ルリ子は銀座で経営する三橋の花屋の店員の役で出ているが、当時15歳。きれいと言うより、まだかわいいという表現がぴったりだ。しかし、アタシは出演している役者よりも周りの景色の方がやたらと気になる。当時の銀座の服部時計店やデパートの建物がとにかく懐かしい。

 東京の真ん中の銀座の街も人通りも少なく、車の量もごく少なく、国産車よりも外車の方が目立つ、そんな風景を見ていると、やはり今よりはまだ世の中がのんびりしていた様子がよく分かる。道行く女性は丈の長いフワッとしたスカートをはいていて、そんなファッションが手に取るよう分かるのも映像の強みだ。

 この日はいつもの深川落語会の常連さんのKさんご夫妻も見えていて、その他も60代のおっさん、おばさんばかり。映画の放映中もこの景色はどこどこだとか、これは懐かしいだのと、口をはさむものだから、静かに映画を楽しもうという向きにはおすすめ出来ない。

 しかし、このような映像をわざわざ遠くまで出掛けなくても、近所で楽しめるのはホントにありがたい。どちらかと言うと映像よりも同世代が集まって、酒を酌み交わしながらワイワイガヤガヤやっている感があって、そちらの方が本当の楽しみなのかも知れない。

↑このページのトップヘ